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ラグビー日本代表 世界ランク10位の実態とその意味するもの

THE PAGE 7月7日(月)14時0分配信より

ラグビー日本代表が国際ラグビーボード(IRB)発表の世界ランキングで過去最高の10位に浮上した。「歴史上初めてのこと。素直に嬉しい」。報せを聞いてひとまず喜んだのは田中史朗。この国初のスーパーラグビー(南半球最高峰リーグ)プレーヤーとなった日本代表のスクラムハーフだ。ニュージーランドのハイランダーズ、日本のパナソニック、ナショナルチームを行き来する29歳である。

2003年に制度が導入された世界ランキングは、国同士の真剣勝負であるテストマッチの結果を受けて変動する。ただ、上位国の顔ぶれはほぼ固定化されていた。ラグビー界では、強豪国は強豪国同士で試合を組みがちだ。その傾向は改善されつつあるとはいえ、「ティア2(世界の勢力分布図における2番手)」の国にとって、順位向上を狙える上位国との対戦は、実現自体が難しいとされてきた。そもそも競技の特性上、番狂わせが起こりづらい。元日本代表監督の向井昭吾氏(現コカ・コーラGM)も実感を込めてこう言うほどだ。

「無差別級の格闘技だから。当たるのが強いチームが勝つんですよ」。

そんななか昨今のジャパンは、エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)の指導のもと上昇ムードに包まれている。14位だった昨秋からテストマッチ(国同士の真剣勝負)では目下10連勝中。特に今春のツアーでは、環太平洋の雄であるサモア代表、欧州6強同士リーグ戦「シックス・ネーションズ」で揉まれるイタリア代表を、いずれも東京は秩父宮ラグビー場で下していた。

東アジアにルーツを持つ「ティア2」のジャパンのトップ10入り。それは世界に驚きを与えるニュースで、日本人の主観論でいえば、「ジャパンの進化の証」とも捉えられそうではあった。しかし、そうした見立てに田中は賛同しない。身長166センチ、体重72キロ。本人の実感としては足も遅くパスも上手ではない。それでも、身体能力で超ド級の大男たちとひりひりする勝負を繰り返してきた。その実感からすると、自身が出場していなかったサモア代表戦は相手がほぼ2軍格で、やはり数名の軸を欠いたイタリア代表とのゲームは「100パーセントの勝ちかいうと…。こっちのホームだったというのもあるので」。だから、順位向上には「嬉しい」と言いつつ、「どうですかね。そんなに強いチームとはやっていないんで」とも続けたのである

ジャパンのトップ10 入りの世界への影響は。田中はこう即答するのみだった。「たぶん、フィジーとかアルゼンチンは腹が立ってくるんじゃないですかね。今年は直接対決していないのに順位が下がって」。ランキング11位のフィジー代表は昨年ジャパンを22-8で下しており、同12位のアルゼンチン代表はニュージーランド、南アフリカ、オーストラリアの上位3カ国と「ザ・ラグビーチャンピオンシップ」という国際リーグ戦に参加している。そもそも、ランキングはあくまで目安でしかないことも事実だ。

そう。ラグビーの各国代表が威厳を示す市場は、4年に1度のW杯なのだ。就任当初は「日本を世界のトップ10に」と謳っていたジャパンのジョーンズHCも、いまは2015年のイングランド大会での準々決勝進出を目指すと公言している。

準々決勝に進めるのは、4つに振り分けられた予選プールの上位2チームのみ。日本代表は予選プールBでランキング2位の南アフリカ代表、同8位のスコットランド代表、同9位のサモア代表、同18位のアメリカ代表とぶつかる。スプリングボクスの愛称で知られる南アフリカ代表は力勝負に強く、スコットランド代表は昨秋、日本代表に42-17で快勝している。サモア代表が本大会にベストメンバーで挑むのも確実だ。

そもそもジャパンのW杯過去7大会での戦績は、1勝2分21敗である。大会直前のテストマッチで勝っていた相手に本番で完敗したことが、過去、何度かあった。選手、指導者としてW杯の舞台を踏んだことのある向井氏は言う。「(ジャパンのランキング10位入りは)非常にすごいことだと思います。ただ、これからですよ。W杯は本気のゲームですから」。

ランキング10位を「プレッシャーのかかる順位」だと話す田中は、自身2度目となるW杯へこう思いを馳せる。「僕のなかではスコットランド、サモアはターゲット。サモアは前回、1.5軍か2軍で日本に来て負けているから、次は気持ちを切り替えてくる。スコットランドも(直接対決時に)こっちが途中までいい勝負をしていた(後半12分にはわずか1点差に迫った)ので、気を引き締めてくる。(ジャパンは)もう一度、ゲームプランをクリアにしたり、個々を磨いたりすることが必要だと思いますね」。

日本代表は7月14日から長野県は菅平での候補合宿を行い、11月のテストマッチ期間への準備を重ねる。それと並行し、8月下旬から国内シーズンが開幕。その向こう側のW杯の結果こそが、ランキング以上の意味合いを示すのである。