ラグビーの応援マナーにも伝統的な価値観は息づいている。日本では学校や企業チームをまとまって応援するために席を区切ることがあるが、ラグビーの伝統的な価値観では観客席はチーム単位で分けず、両チームのサポーターが肩を並べて見るのがスタンダード。指定席を買い、もし隣に相手チームを応援する人が座ったら、にっこり微笑んで健闘を誓い合い、試合が終われば勝敗に関係なく健闘をたたえ合う。それがラグビーの観戦マナーでもある。
2015年のラグビーワールドカップでは、日本代表が南アフリカ代表を破る快挙があった。この中で僕が最も印象に残ったのは南アフリカを応援していた人たちの態度だ。グラウンドに物が投げ入れられることもなく、選手に罵声を浴びせることもなく、笑顔で日本のサポーターを祝福していた。もちろん、落胆の色を隠せない人が多かったが、それでも暴れたりする人はいなかった。2016年11月19日、日本代表はウェールズ代表を追い詰め、再び世界を驚かせた。この時、ウェールズの聖地「プリンシパリティ・スタジアム」には約7万4000人の観客が集った。僕も観客席にいたのだが、日本のトライのたび、前列に陣取るウェールズの人達が振り返って、「いいトライだ」という表情でうなずいた。それは日本が30 – 30の同点に追いついた時も変わらなかった。その後のウェールズ代表を後押しする大歓声は凄まじかったが、試合後は多くのウェールズの人々から握手を求められた。良い試合が見られたことに対する感謝である。
その姿に、「ラグビー憲章」にある5つの言葉、品位 (INTEGRITY)、情熱 (PASSION)、結束 (SOLIDARITY)、規律 (DISCIPLINE)、尊重 (RESPECT)が思い浮かんだ。その精神は観客にもしっかり根付いている。SOLIDARITYの説明には次のようにある。「ラグビーは、生涯続く友情、絆、チームワーク、そして、文化的、地理的、政治的、宗教的な相違を超えた忠誠心につながる、一つにまとまった精神をもたらす」。
こうしたラグビー観戦マナーには国により、あるいは選手権によって違いがある。イングランドなどでは選手がプレースキックを狙う時は敵味方関係なく静かにするのが当たり前だが、ラテン系の国は大いに声が出る。南半球のスーパーラグビーは比較的騒がしいし、エンターテイメントな演出もあってノリが良い。これがセブンズ(7人制ラグビー)になれば、プレーの合間に歌って踊り、お祭り騒ぎになる。ラグビーワールドカップは、ラグビーの伝統的な応援マナーを守っている。日本で開催される2019年大会でも、それに沿うべきだし、世界のラグビーファンと一緒に、静と動が繰り返される格式ある雰囲気を満喫したいところだ。
選手がファンの皆さんに対してフレンドリーに接するのも、ラグビーの伝統的なスタイルだ。トップリーグが企画する「グリーティングタイム」は、試合後、選手達と握手や写真撮影を楽しめるもので、ファンの皆さんにも好評だ。ラグビー憲章の「結束」には、ファンの皆さんも含まれている。選手と接し、より身近な存在になればさらに応援に力が入るだろう。選手達とともに笑い、泣き、戦って、充実したラグビーライフを送ってもらいたい。(村上晃一氏談)